2010年9月7日火曜日

三隅大平桜(島根県浜田市三隅町矢原)

三隅大平桜(みすみおおひらざくら)

●所在地 島根県浜田市三隅町矢原
●探訪日 2010年4月2日
●樹齢 660年
●指定 国天然記念物(昭和10年)

【写真上】三隅大平桜その1

◆解説

 山城とは直接関係はないが、今稿は番外編として前稿「茶臼山城」から南に5,6キロほど登った矢原地区にある「三隅大平桜」を紹介したい。

 全国には有名な桜がたくさんあるが、この石見地方でも見事な花を咲かせる老木が数本点在している。特に「三隅大平桜」(以下「大平桜」とする)は有名で、春になると県内外からこの石見の山奥へ観光バスやマイカーで多くの人が訪れる。

 枝張り東西24m、南北29.6mで、彼岸桜と山桜の両方の性質を持つ「ミスミオオヒラザクラ」という貴重な品種のもので、推定樹齢年数は、660年という。
昭和10年(1935)に国指定の天然記念物とされたが、その当時は幹枝が11本あったという。今は山火事や、台風などで4本しか残っていないが、たくましい生命力と地元の管理をしている人の手によって今日まで保っている。
【写真左】三隅大平桜その2
 かなりの老木のため、年々開花する確率が低くなっているとのこと。周辺には観光客のための駐車場などが整備され、地元の人によって屋台などが並ぶ。
 600年以上もの永い間、この地で石見の歴史を見続けてきたわけである。
【写真左】三隅大平桜・その3













 生前、作家の水上勉氏が当地の桜を初めて見た時、余りの素晴らしさに「まるで雪の小山のようだ」と絶賛、その話が次から次と伝わり、この石見の桜は一気に有名になった。

 さて、山城探訪者としては、桜見物も楽しいひと時ではあるが、どうしてもこうした山間地に行くと、周辺の山城が気になる。

 実は、この「大平桜」のある矢原地区には、三隅氏一族の支城といわれた山城がある。
前稿「茶臼山城」本丸に設置されていた「三隅高城と内郭外郭城跡案内図」にもあるように、この桜がある位置から、南西へ500m向かったところの「矢原城」である。
【写真左】三隅太平桜その4
 右側は法面になっており、周囲は棚田の面影が残る。近くに民家が見えるが、おそらく其処が大平氏の家だろう。
【写真左】三隅大平桜・その5
【写真左】駐車場付近
 10年ぐらい前に訪れた時は、この場所に向かう道は狭い旧道しかなかったが、近年観光バスや多くのマイカーが訪れることもあって、道路や駐車場も整備されている。

 ただ、ピークには相当混雑するため、充分に注意が必要だ。




 三隅高城の南方を守る役割のあった支城で、城主は後に「四ツ山城」の城主となった須懸備中守忠直や、矢原掃部介兼永などであったという。

 ところで、「大平桜」の樹齢は、660年という。単純計算すると、植えられたのは1350年、すなわち正平5年(観応元年)となる。

 この桜の所有者・大平富太郎氏の祖先が、「馬をつなぐために植えた」と言い伝えている。大平氏の出自は分からないが、矢原城を含むこの三隅氏の領有地で、正平5年ごろに桜が植えられたということと、「馬をつなぐために植えた」という伝承を考えると、そこに石見南北朝時代の歴史の一コマを想像せずにはいられない。
【写真左】四ツ山城遠望
 大平桜の近くにあるという「矢原城」は、この日向かっていないが、この場所から南の峠を越え、現在益田市となっている美都町東仙道に入ると、「四ツ山城」を望むことができる。

 四ツ山城は、2009年12月27日に投稿しているが、この時の写真は四ツ山城全貌を撮影したものがなかった。文字通り「四ツ山」を俯瞰するためには、南麓側からよりも、北側の方から見た方が、「四つの峰」を確実にみることができる。


石見南北朝

 当時、博多の探題一色載氏吉原山城(京都府京丹後市峰山町赤坂)参照)は、足利直冬が中国探題として西下したため、西国の武家方の勢力が弱まったことに恐れ、一旦肥前に逃れ、足利尊氏にその救いを求めた。そして、正平5年4月、石見の「三隅兵を起こす」との注進があった。

 同年7月20日、足利直冬は出雲市の鰐淵寺に祈祷を命じ(鰐淵寺文書)、8月13日には出雲国佐々木信濃五郎左衛門尉らは直冬に応じ挙兵、同月19日には、小境元智も直冬方として旗揚げし、多久中太郎入道らと共に白潟橋で終日戦闘を繰り広げた(萩閥66)。
以後、直冬・石見宮方連合軍と、武家方との間で激しい戦が繰り広げられることになる。

 大平氏の敷地に植えられたこの桜は、直冬による宮方軍の戦勝祈願、もしくは武運長久を祈った三隅一族の植樹記念のものだったかもしれない。

 「馬をつなぐ」馬とは、当然武者の馬で、おそらくこの見事な桜の場所は、馬場跡であった可能性が高い。そして、矢原城主だった須懸備中守や、矢原掃部介らの馬が、この桜の木に繋がれていたと想像もしてみたくなるのである。

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